「水曜に取り寄せたお酒で土日(週末)を楽しむ」がモットー(志向)。
毎日をゆるく生きる水取 日土志の緩ライフを毎週ゆる〜くご紹介。

さて、今週はどんな緩ライフを過ごしているでしょうか……

今週の晩酌酒 vol.94

22年秘蔵酒/庭のうぐいす 旧国鉄トンネル貯蔵大古酒

日土志、発掘の旅!
廃線トンネルに眠る神秘のお酒を探して



国境の長いトンネルを
抜けると雪国であった。

『雪国』by 川端康成


トンネルを通った先には何があるのか。
人はその好奇心に抗うことはできず
トンネルの向こう側を目指す。で、物語がはじまる。

ウサギの穴を通って迷い込む
『不思議の国のアリス』。
日本にだってもちろんあるよ。

おじいさんが地面の穴から、ネズミの国へ行く
「おむすびころりん」があるし、
そもそも『古事記』では
イザナギが、死んだイザナミに会いに、
(たぶん)トンネルを通って黄泉の国へ行くのだ。

つまり、トンネル自体、
この世とあの世をつなぐ装置であって、
トンネル内はどちらの世界にも属さない“亜空間”、
もしくは、どちらの世界とも交わる“境界”という
極めて異質な空間なのかも知れない。

世界の道理が通じない混迷の“亜空間”
それがトンネル……というわけで、
「亜空間貯蔵酒」とでも言うべき(おいおいSFか!)
禁断のお酒を探しにオイラは長い旅に出たのであった。



22年秘蔵酒/庭のうぐいす 旧国鉄トンネル貯蔵大古酒 1800ml

商品はこちら   

8月某日、オイラは、 とある新聞記事を頼りに、
神秘のトンネル貯蔵酒を発掘すべく
とある駅に降り立った。



西鉄久留米駅

福岡県久留米市東町にある
西日本鉄道(西鉄)天神大牟田線の駅である。




早速、現地へ向かう。
目的地は八女郡上陽町の山奥にあるトンネル。
おあつらえ向きに、
緑生い茂る細い田舎道を行く。
(実は元、線路が敷いてあった道なのね)




ついに洞窟の入り口が見えてきた。
いかにも何か出そうでちょっと怖い。
否、ひるむな! オイラは勇者ロトの子孫。
とか言って恐怖心を紛らわす。




『隧道熟成 須々許里』とある。

「隧道(すいどう)」とはトンネルのこと。
「須々許里(すすこり)」は古事記に出てくる人名。
何でも、百済から日本に渡来してきた
酒造りの名人の名前なんだとか。

『隧道熟成 須々許里』はつまりお酒の名前で、
命名者は当時の福岡県知事・奥田知事である。

では、「須々許里」というお酒こそ
オイラが探し求めてきたものなのだろうか……。
とにかく歩を進める。




中は思った以上に広い空間。
そりゃそうか、だって電車が通っていたわけですもの。

蝙蝠の一群が寄り添って寝ている下を
山口哲生さん(代表/山口酒造場)が颯爽と歩いていく。
奥にもう一つ扉が見える。




ぶっとい鎖で掛けられた厳重なロックを
山口さんに開けてもらう。




振り返ると光はもう大分後方に。
引き返すなら今しかないが……。

意を決して中に入る。
と、そこは、完全な闇……。
先程トンネルに一歩踏み込んだ瞬間から
涼しいと感じたけれど、
ここの空気は完全に別物、別世界。

この日は晴天で気温30℃を超える真夏日だったが、
涼しさを通り越して肌寒いぐらいひんやり。
空気が厳かで、無音無風。
そう、ワインを貯蔵するワイン・カーヴのようである。




ぬおっ!
おびただしい酒の山を発見。
しかも超古そう。
なんだここは?!

ここは旧国鉄・矢部線の廃線トンネル
(中原トンネル跡)。
上陽町から隣の黒木町にかけて全長441mあり、
上陽町側の120mlがお酒の貯蔵庫になっているのだそう。
(旧国鉄って響きがたまらなくロマン)

同町が旧国鉄から譲り受けたものを
福岡県内の造り酒屋で構成される
「福岡銘酒会」(昭和52年発足)が借り上げた。

何のために?!

元はと言えば、山口哲生さんのお父さんで
「福岡銘酒会」の会長であった山口尚則さんたちが
県内酒PRのため、同会共同開発による
統一ブランドの“熟成酒”を造ろうとしたことが始まりだ。

昔から
「夏を越すと日本酒本来の旨味が増す」
と言われてきたが、
精米技術が進んだ最近のお米で造ったお酒だと
「ひと夏越しでは旨味がのり切らないのでは?」
「かと言って老酒タイプのような古酒も違うだろう」
ということで、当時としては革新的な
「ほどよい熟成」を得た熟成酒をコンセプトとした。




こうして「ふた夏越し」の熟成酒プロジェクトがスタート、
貯蔵場所として同トンネルに白羽の矢が立ったという。
なお、お酒の貯蔵に向く条件としては
以下のようなものが挙げられる。

(1) 年間を通じて温度が低く一定であること
(2) 光(特に紫外線)が遮蔽できること
(3) 振動がないこと

果たして、トンネル内の温度は昼夜の差がなく、
真夏でも18℃以下に保たれ、冬場は13℃。
年間を通しての温度差も小さく、
光が届かないことなどから
コストをかけずに長期熟成を行う
貯蔵環境としてもってこいであった。

初入庫は、今から約28年半前の平成2年5月16日。
それから、ふた夏を越して、トンネル貯蔵酒
『隧道熟成 須々許里』(平成1BY)は陽の目を見た。

こうした統一ブランドのほか、
初入庫時16社あった「福岡銘酒会」の面々は
実験・研究を目的に各社で独自にお酒を貯蔵する
という試みを行ってきたのである。




!!!
8年BY酒……?!
こ、これだっ!

オイラは長く険しい旅の末、
ついに秘宝を探し当てた。
この箱に眠っている日本酒こそ、
22年秘蔵酒/庭のうぐいす
旧国鉄トンネル貯蔵大古酒

なのだ。

醸造年度「平成8年度」に瓶詰めした純米酒を
なんと22年もの長期に渡って、
トンネル内に貯蔵した秘蔵酒である。




そのとき赤ちゃんだったとしても
もう大学卒業だよ!

などと突っ込みを入れる余裕も出てきた。

だって、ようやく巡り会えたのだもの。
張りつめた緊張が一気に緩み、
心に光りが差し込む。
さあ、帰ろう! 凱旋だ。




トンネルから車で30〜40分。
やっと『庭のうぐいす』を醸す「山口酒造場」に到着。
外観からしてすんごく綺麗で素敵なお屋敷です。
一朝一夕では培われない風情があります。




玄関をくぐると、
『庭のうぐいす』のお酒がたくさん並んでいる。
それにしても趣きあるなー。




建物の造りだけじゃなく、
タンスや調度品まで古式ゆかし。




おお、かまど!
しかも4口もあるなんて見たことない。
ここも古いけれど、隅々まで手入れが
行き届いた美しいお勝手でした。

さて、蔵見学も済んだし、
念願の戦利品を頂こうかしら♪



22年秘蔵酒/庭のうぐいす 旧国鉄トンネル貯蔵大古酒 1800ml

商品はこちら   

あ〜〜〜れ〜〜〜♪
嬉しい悲鳴。
だってもう完璧に準備されてる!
ありがとうございます!

各種チーズにドライフルーツにチョコレート。
さすが分かってらっしゃる。
オイラ、釈迦の手のひらの上状態。でも嬉し。

というわけで早速いただきます!

まず色味。
22年の大古酒というのに
その奥ゆかしい琥珀色に目を奪われる。




飲んでみてさらに驚き。
もちろん長期貯蔵酒特有の熟成香はあれど
穏やかで上品なナッツ様の香りで劣化臭はない。
味わいもそれを反映するかのように、
透明感がありすっきりクリア。

特に後味のハーバルな清々しさたるや
本当に特筆すべきもので、
例えるなら、曇ったガラスを手で拭い
視界が晴れたときのような爽快感である。

否、ガラスではなく鏡だ。
蒸気で曇った風呂場の鏡を拭う。
そこにあるのは顔。
自分の22年間と対峙し問う。
何をしてきたか? と。

答えはない。
頑張った人生も、
頑張れなかった人生も
この酒が称えてくれるのだ。




マイナス温度貯蔵ではない長期22年貯蔵酒が、
なぜここまで美しい酒質を保っているのか。
年間の品温変化が小さいとはいえ、である。

実際、蔵などで同様の条件で貯蔵するより
このトンネル貯蔵酒の方が、
熟成の進みが遅く、いい意味で若さが保たれ、
キメ細やかでまろやかに熟成するのだという。

理由は、トンネル内は通常よりも
空気量の大きな巨大空間であることや
空間内の対流がないことなどが挙げられるが、
それでも不思議というほかない。
神秘的。
まさしく “亜空間” と呼んでいい場所
なのかも知れないよな。





このトンネル秘蔵酒、
食中酒としての威力には目を見張るものがあるが、
合わせる食べ物がなくともいささか困らない。
それだけをちびちび飲んでいて飽きない。
単体で成立するのである。

それから燗も凄い。
ハーバルかつ、ブランデーやコニャックに似た
気品を伴った風味をまとう。
後味の切れ口は更に増し、
小説『雪国』の研ぎ澄まされた描写のように
深く鋭いテクスチャーに包まれる。




さあて、いかがでしたでしょうか。
日土志のトンネル貯蔵酒発掘の旅。

暫く連載をお休みしていて申し訳なかったけれど、
福岡県の宝、国の宝、
滅多にお目にかかれない財宝を見つけてきたよ。

今から30年前、平成が始まる前夜、
貯蔵場所のトンネルを探し出し、
将来を見据えて、熟成酒を造ろうとした
先人たちには首を垂れるばかりさ。

そして現在、
平成が終わろうとしている
この運命的なタイミングに
ぜひ味わってみておくれよね。
ほしたらばー!




山口酒造場の山口さん、石丸さん、
蔵人の皆さん、ありがとうございました!


数に限りがあります。
お早めにご注文ください。


日土志が飲んでいるお酒

22年秘蔵酒/庭のうぐいす 旧国鉄トンネル貯蔵大古酒 1800ml

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今週のつまみ

<チーズ盛り合わせ>すっきりした熟成酒のため、あまりクセの強いチーズじゃないほうがいいかもね。



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プロフィール

水取 日土志
(みずとり ひとし)


38歳(男性・独身)。西小山在住。
近所のかがた屋酒店でお酒を買って晩酌するのが一番の楽しみ。
出世するつもりは毛頭なく、職場でもお酒のことばかり考えている。
最近、ウンチクが過ぎて部下にウザがられていることを自覚したのか、
酒屋で仕入れた情報は、もっぱら猫か、かがた屋の新人にだけ話している。
西洋かぶれの一面もある。外見からは想像できないくらいチャーミング。

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