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かがた屋酒店の常連客で、
『今週の晩酌』を連載中の水取 日土志(みずとりひとし)が、
新企画を持ち込んできた。

『渡辺篤史の建もの探訪』(テレビ朝日)でおなじみ
俳優・渡辺篤史に憧れを抱いていたことから
勝手に蔵元探訪を始めた模様です。

さて、今回はどこに向かったのでしょうか……

水取日土志の蔵もの探訪 vol.02

なかむら・玉露/中村酒造場(鹿児島県)

昔ながらの純手造り
六代目・中村慎弥杜氏と20年貯蔵酒



昔ながらの〜〜


よく使われる便利なフレーズ。
無条件に郷愁を誘う言葉だけれど、
係る対象は本当に「昔ながら」なのか
甚だ心許ない。

そもそもの問題は、何を基準に
「昔ながら」と言っているのかを
ほったらかしにして、この魔法のワードを
“とりあえず” 繰り出していることに
あるんだと思うのだけれど……

でも、しょーがないじゃん?!
昔のことなんか知らないしぃ……

というわけで本日は、
“昔ながら” の酒造りを続ける
「中村酒造場」さんに伺って、
自他共に認める“昔ながら”の酒造りとは何か
探って参る!

『水取日土志の蔵もの探訪 vol.02』
スターーートッ!!



限定20年貯蔵/なかむら 謹醸 宇治野正 原酒36° 720ml


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中村酒造場
昔ながらの純手造りの焼酎蔵

今日の『蔵もの探訪』は
“昔ながらの純手造りの焼酎蔵”
中村酒造場さんにお邪魔します。

中村酒造場さんがあるのは、
鹿児島県霧島市国分湊。
国分平野と呼ばれる田園地帯の中だそうで……



国分平野と桜島

ああぁ〜〜〜〜、
素晴らしい穀倉地帯だね。
最近は特に目の敵にされがちな電柱電線ですが、
こうした景色には昔ながらの風情が漂っていいもんですな〜。
スズメさんもみーんな休んでてねぇ。

奥に見える山は桜島ですか?
白いのは雲?!
それとも火口から上がる噴煙でしょうか。
いや〜〜〜さすが鹿児島。
雄大な自然があります。

そうして
車で国分湊を走っていると……
ややっ! 見えてきました。
田園地帯にスッと伸びる煉瓦造りの煙突。
おそらくアレですね。




ははぁ〜〜〜。
煙突だけじゃないんですね、煉瓦なのは。
煙突と同じ赤いレンガ蔵から煙突が出ていたわけです。
集落の中でここだけ明治時代というか
レトロ・モダンな印象を受けますね。

それもそのはず、
創業は今からちょうど130年前、
1888年(明治21年)だそうですから
ちょうど明治の半ば。
ちなみにあのうどん県(香川県)が
愛媛県より独立した年でもあるそうです。

まあ、それはさておき、
はぁ〜〜あるんですね、こういうのが。
まだ日本にね。素晴らしいよね。
頑固に守る人がいなければ
消えてなくなってしまうものですから。
横浜の赤レンガ倉庫も素敵ですけれど、
また違った味わいがあります。

さて、それでは、
早速蔵内を拝見しましょう。
お邪魔します。




ほほぉ〜〜〜。
この太い柱のようなものが煙突ですか。
風合いといい、継いだ跡といい
歴史を感じます。
おっと、その煙突の後ろに
見切れているのは何でしょう。




ははぁ〜〜〜。
やはり蒸留器でしたか。
こちらも年期が入っていますね〜。
この後ご登場する中村杜氏曰く、
焼酎造りには様々な工程があるけれど、
「焼酎造りを子育てに例えると、蒸留という工程は
ある意味“成人式”のような気持ち」なのだそうです。




綺麗なお芋ですね〜。
こちらが焼酎造りに最も適していると言われる
さつまいも「黄金千貫」ですね。
現在、仕込み待ちですが、出番が来れば、
洗われて切られて二次醪(もろみ)のタンクに
投入されることになります。
早く焼酎になりたいよーーって、ねぇ?

原料のさつまいもは形がいびつでなく、
痛みやキズがないものが良いそうです。
人間もそうですかね?!
んーーどうでしょうか。




はい。この方こそ、
現・杜氏 兼 次期(六代目)蔵元
中村慎弥(なかむらしんや)さんです。
今年(2018年)正式に杜氏となられました。

かがた屋酒店のオリジナルTシャツ、
通称カガティーを着て、
熱く語る姿もとっても素敵。
早速、拝聴しましょう。

麹室(こうじむろ)に
失礼します。




ははぁ〜〜〜〜。
こちらがウワサの麹室(こうじむろ)ですか。

ご覧ください。ここ中村酒造場さんには、
九州でも3蔵しかないといわれる
昔ながらの「石造りの麹室」があるんですね。

焼酎蔵で麹室を見かけることはほぼありませんので
とっても珍しい。しかも石造りときた。

その麹室で、清酒蔵のように
自分のとこで「麹(こうじ)」を造るんです。
どうしてそんな面倒なことをするんでしょうか。




中村さん曰く、
実のところ、焼酎の個性の幅というのは、
たった【0.2%】の香味成分にしか存在しない
というのです。

逆にこの狭い部分に全てをかけるのが
焼酎のロマン…… と、
そういうことですか、ははぁ〜〜。
いや、わかりました。

にわかには信じがたいことですが、
世の中には色んな焼酎があるのに
たった【0.2%】しか違わないという
驚くべき事実に私、戦慄しております……。

そして、各焼酎蔵がこの【0.2%】を
主戦場にしてしのぎを削る中、
中村酒造場さんがこの戦いにおける
最大にして最高の武器とするのが
「麹」ということなんですね。

どうしてでしょうか?

さあ、それでは、焼酎造りの“命”という
「麹」造りについてお話をうかがいましょう。
お願いします。



↑地面に埋められたカメ壺。
白麹によって発酵が進む一次醪。
(引用元:中村慎弥さんのFacebookより)


室付きの麹の焼酎

中村酒造場で造る芋焼酎には
白麹、黒麹を使ったものがあります。

そのため、どちらの麹も
この麹室で造るのですが、
造る順番があり、
必ず白麹の後に黒麹とするそうですよ。
逆にすると、どうしても白に黒が混じって
色が黒っぽくなってしまうんだってね。

だから当然、
白麹仕込みの焼酎を全て造り終わった後に
黒麹仕込みの焼酎を造るんだそうです。
ははぁ〜〜〜〜、
全く存じ上げませんでしたが、
実に不自由ですね。
一旦始めたら後戻りできないんでしょう?

そうした造りを一通り終えると
室内を一度綺麗に清掃します。
熱湯もかけたりと殺菌もするそうです。
そして……その後ではじめて、
中村杜氏の実験が始まるんですね。
「室付き麹」 を造ってみるという実験です。
室伏広治さんとは関係ないんですよね?!



↑こちらも地面に埋められたカメ壺。
黒麹によって発酵が進む一次醪。
(引用元:中村慎弥さんのFacebookより)


麹室に特定の麹菌を添加しない蒸米を置いておくと、
黒麹と白麹の両方の菌が繁茂して
そこにほんのちょっと 黄麹 が混じった
謎の「麹」ができ上がりました。

「黄麹?!」
「ウチ使ったことないけど……」
「昔使っていたのかな」
「そもそも黒・白麹の中に黄麹って居るんじゃないか」


など、様々な憶測が飛び交いますが
兎にも角にもどこにもない「中村麹」のでき上がりです。

中村さん曰く、
「室内をどんなに綺麗にしても中村菌がいるらしい」

その証拠が、室の扉の外側上部に
びっしりと付いている黒いシミ。



(引用元:中村慎弥さんのFacebookより)


「多分これウチに住み着いている麹菌です笑」

これまで室内の麹菌を必死に探していたけど
いつも目にしていたという事実。
面白いね〜〜〜。

これは 借景(しゃっけい)ではなく、
中村酒造場でしか見ることのできない
絶景 ですよね。

はい、まとめますと、
昔ながらの手仕事によって、
この石造りの麹室でしか生まれない麹の持つ性質が
中村酒造場で造られる焼酎の個性となっているんですね。
なるほど、
よく分かりました。



杜氏の異常な愛情

どうでしたか?
若き杜氏・中村慎弥さんの「麹」にかける情熱。
何せこの日もたっぷり2時間以上、
止まらないんですね、「麹」の話。

私も口数少ない方ではないですが、
私にカビが生えちゃうんじゃないかっていうぐらい
ありったけの思いを語ってくれました。
ありがたいね。え?! まだ話し足りない??

いや、でも分かったことはね、
中村さんのやろうとしていることはただ一つ、
「美味しい焼酎を造ること」
これにのみ貫いているんですよ。




そこで、なるほど、
ウマい焼酎とは何か?
自分の蔵の個性とは何か?
中村酒造場の原点とは何か?
と、考えに考え抜いてたどり着いた答え。
それが中村酒造場自慢の
「石造りの麹室」にほかならないわけですよね。

麹を知り、育て、醸す。
麹への飽くなき探求心。
麹に魅せられた男闘己(おとこ)、
「蒸留帝国・鹿児島、麹のプリンス」
イケメン杜氏・中村慎弥。

おじさんもね、こんな顔に生まれたかった。
真剣に語る表情もいいですが、
笑顔がとっても爽やかなんです。



↑先々代の杜氏・宇治野正さん(右)と
現杜氏・中村慎弥さん(左)
(引用元:中村慎弥さんのFacebookより)


「人の手」「人の技」に重きを置き、
昔ながらの道具で、昔ながらの焼酎造りを貫く
老舗焼酎蔵・中村酒造場。

語るに最たるものが「石造りの麹室」と
そこで造られる手造りの麹。
その他にも一本いっぽん規格の違う和ガメや
石造りの冷却槽など先人から継いできた英知を
大事にしながらも
「もっとウマい焼酎を造る」という一心と
そのためにどうすればよいかという探求心が
途絶えることはない。




つまり、「昔ながら」という言葉には、
「昔ながらの焼酎造り」というように
昔から続く伝統を守るという意味があるけれど
「しかし、更にその先を目指す」という言葉が続く
現状に安寧しない強い意思を表す「枕詞」と
言えるのかも知れないよね。

そうであって欲しいし、
まさしく中村酒造がその代名詞と言えそうです。


それにしても、
中村杜氏の「麹」の話を聞いて
オジサンも想像以上にテンションが上がりました。
明治時代から住み着いている麹菌との出会い……、
タイムスリップしたような感覚でしたね。






中村酒造場の中村慎弥さん、蔵人の皆さん、
本日はどうもありがとうございます。
(訪問日:2017年9月某日)

お邪魔しました。また伺います。


日土志が訪問した酒蔵のお酒

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プロフィール

水取 日土志
(みずとり ひとし)


38歳(男性・独身)。西小山在住。
近所のかがた屋酒店でお酒を買って晩酌するのが一番の楽しみ。
出世するつもりは毛頭なく、職場でもお酒のことばかり考えている。
最近、ウンチクが過ぎて部下にウザがられていることを自覚したのか、
酒屋で仕入れた情報は、もっぱら猫か、かがた屋の新人にだけ話している。
西洋かぶれの一面もある。外見からは想像できないくらいチャーミング。

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